1.十五世紀初期イングランド(ヘンリ四世期及びヘンリ五世期)の全般的政治状況の概括を、主として二次文献に依拠して纏め、仮説とした。 2.同時期の全ての議会制定法を内容毎に分類し、数的分布による同時期の政策の主要動向分析を行って、仮説を検証した。 3.その結果、ヘンリ四世期は国内貴族及び辺境住民による反乱の危機への対処が最大の政策課題であったに対し、ヘンリ五世期はこの危機の鎮静に基づく対外政策(英仏百年戦争再開)の遂行に力点が移動していることを確認し、混乱から安定へという1.の仮説を立証した。 4.これを前提に、ヘンリ四世期とヘンリ五世期の政策のより詳細な対比によって、十五世紀初期の議会の機能を解明するため、ヘンリ四・五世期の治安政策立法の内容を分析した。 5.その結果、議会制定法の全体に占める治安政策立法の数的・時期的分布及び個別条文内容の精度において、ヘンリ四世期とヘンリ五世期の間には上記3.に対応する相達が見られること、及び、それにもかかわらず、治安政策に対する政権9取組にはむしろ一貫性が認められることが明らかになり、混乱から安定へという上記図式の射程が必要となった。 6.そのため、時代を遡ってリチャ-ド二世期の治安政策立法を抽出・分析し、この動向を上記5.の結果と対比して十五世紀初期の治安政策と議会の機能を再検討した。 7.その結果、治安政策が政権の主要課題の一である状況は既に十四世記後半に出現していたこと、これに対する議会制定法の活用は十五世紀初期までに高度化してヘンリ五世期に一応の結果をみること、ヘンリ四世期はむしろこの間の過渡的現象を示すこと、を解明した。 8.以上の成果は、平成4年5月に西欧中世史研究会で発表の予定である。
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