研究概要 |
本研究は,従来のドイツ憲法研究ではほとんど詳細な検討がなされてこなかった,アメリカ合衆国憲法がドイツ憲法に与えた影響という観点に焦点を当てて,これを明らかにするという目的をもって企画されたものであり,とりわけ1849年のいわゆるフランクフルト憲法の歴史的意義を検討することをめざすものである。その一環として,すでに平成4年9月には,フランクフルト憲法の基礎資料たる同憲法の邦訳を発表した(法学論叢131巻6号,1992年9月)。ドイツの近代以降の諸憲法のうち,ビスマルク憲法,ヴァイマル憲法および現行の基本法等々については,すでにこれまでにいくつもの邦訳が出ているが,フランクフルト憲法については,まだまとまった形の邦訳は公表されてこなかった。これは,わが国の従来の憲法学において,どちらかといえば,実定憲法が実際の当該国家においてどのように運用され,裁判において解釈・適用されたかということに,主たる関心が寄せされ,その反面において,フランクフルト憲法のように,「挫折した」憲法については,一部の憲法史研究者の関心を引いてきたにすぎないという事情の結果であるように思われる。しかし,フランクフルト憲法が,いくつかの点においてのちのドイツ憲法(とりわけヴァイマル憲法)に大きなポジティヴな影響を与えていることは事実であり,今後もこの憲法の歴史的意義を検討する必要性が大いにあるように思われるので,そのための基礎資料としてこの全文を邦訳したものである。そしてこれを踏まえて,同憲法をも含めたドイツ憲法の歴史的発展についての論文およびドイツ近代憲法資料集の刊行を予定しており,また現在,本研究のために入手しえた資料を用いながら本研究の主たるテーマたるアメリカ合衆国憲法の影響についても執筆している。その研究成果は追って(本年度中に)公表できる見込みである。
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