研究概要 |
ユ-ゴスラビアでは,91年6月にスロヴェニアとクロアチアの両共和国が独立を宣言し,それを認めない連邦とセルビア共和国など連邦維持派との間で軍事衡突を含む激しい対立を生みだした。EC諸国の「統一ユ-ゴ」を求める圧力にもかかわらず,「内戦」の激化の中,内外ともに現在の連邦制の解体,クロアチアとスロヴェニアの独立,マケドニアとボスニア,ヘルツェゴビナの独立志向の強まり(現在のところ緩かな連合の可能性も残る),セルビアとツルナゴ-ラによる「新ユ-ゴスラビア」の創設といった方向性が固まりつつある。 こうした連邦制をめぐる対立構造は解消されつつあるのに比して,新たな憲法秩序の再編については各共和国が新憲法を各々に制定(又は準備中)しているにもかかわらず,主として新しい経済体制への転換が順調に進まず,政党状況も安定化していないため,社会的,経済的,政治的状況は依然として不安定のままに推移している。 そのため,課題の研究も大きく制約されたが,(1)連邦の憲法構想(90〜91年),(2)セルビア,スロヴェニア,クロアチアの新憲法の検討,(3)民族対立と連邦制の将来にかんする国内サミットとそこで提起された諸構想の検討を行い,必要に応じて「社会主義法のうごき」(月刊)に紹介した。今年度の研究としては,90年段階でユ-ゴスラビアも「社会主義」を放棄し,結果として自主管理も問題とされなくなったこと,にもかかわらず「内戦」に象徴される社会的混乱もあって,なお新たな憲法秩序の像を結ぶにはいたっていないことが明らかにされた。92年3月段階では国連の介入もあって,「和平」の展望も出始めているが,新体制への移行過程にはなお長期の時間が必要とされるように思われる。この研究課題はしたがってここ当分は継続を余儀なくされることにならざるをえない。
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