研究概要 |
本研究の成果は次の3点に要約される。第1は,ラドナ-に始まる不完全市場を巡る一般均衡の存在問題に関わるものである。不確実性を表現する状態空間が有限であるような有限期間の一般均衡モデルにおいて,状態に依存して財ベクトルや通貨単位が支払われる実物証券・金融証券が,状態依存所得空間を張らないような「不完全な」市場構造を考える。このとき,実物証券の取引市場において取引制約が課されなければ,一般に市場における均衡ー合理的期待均衡ーは実現しない(存在しない)というのがラドナ-が得た基本的な結論である。これに対し本研究で得た結論は,実物証券市場における取引数量に制約が課されなかったとしても,証券取引が取引費用を要するならば,ラドナ-の意味での合理的期待均衡は実現し,かつ,均衡において外部通貨の価値は正に保たれうるということである。ここでは実物証券・金融証券とともに信用通貨が異なる状態間の価値移転の手段として用いられている。財の先物取引はすべて実物証券の取引を通して行なわれるが,自由な市場取引のメロニズムを保証する一要因としての役割を取引費用が果たすと同時に,信用通貨の価値基準としてのアンカ-を作り出す役割を担っている。第2点は,市場取引において売買価格差を存在すれば,それが明示的な取引費用によるものであれ,あるいは,政府による間接税の導入によるものであれ,信用通貨が価値基準として機能することを保証するという点である。これは貨幣理論における「ハ-ン問題」として知られる問題について,最終期の通貨価値が保証されるメカニズムを解明したものである。第3点は,貨幣理論におけるハ-ン問題と情報化社会における決済システムに関する問題の共通点が明確にされた点である。
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