ユ-ゴスラヴィアの自主管理型市場社会主義の試みについては、従来から関心をもち、ある程度理論的検討を加えていた問題であるが、ユ-ゴスラヴィア自体の解体が既成事実化した現在、その破綻という観点から、最近入手できた新たな資料をも踏まえ、ユ-ゴの経験についての理論的総括を行う研究をいま手がけている。自主管理社会主義という視点から問題を捉えてみるとき、経済的民主々義と経済効率との間にトレ-ド・オフ関係が存在するということもさることながら、より決定的であったのは、生産手段の具体的所有権者を敢えて確定しないというユニ-クな社会的所有制のもとで、資本のきわめて非効率的な利用が一般化しただけでなく、資本市場の発達そのものに大きな制度的制約が課せられたという事情であったように思われる。この点についての立ち入った分析は春までにまとめ、学術雑誌に公表する予定である。 ユ-ゴスラヴィアの例との対比を予定していたスペインのモンドラゴンの興味ある実験については、資料入手が当初予定より遅れたこともあって本格的に取りかかるところまでには至っていないが、予定していた資料もほぼ入手できつつあるので、来年度以降にずれ込むことは避けられないにしても、平行して研究を進め、両者の利害失の比較検討を通して、長期的に持続可能な経済体制として望ましい労働者管理のあり方を探る研究に結びつけていきたいと考えている。
|