研究概要 |
最近,経済分析でも多用されるようになってきた「質的変量モデル」についての統計理論面の研究は,従来は十分なされているとはいえなかった。特に,経済分析における応用例では,モデルの選択(たとえば応答関数になぜロジット型を採用するのか)について,理論的に十分な配慮がなされた例はほとんどなかった。しかし経済データの分析においては,誤差項に正規分布を仮定するのが正当化されないのと同様,応答関数にロジスティック分布や正規分布を仮定することは現実的ではない。このような場合に誤った仮定を用いた分析を行うと,結論が歪められる危険が大きいことがいろいろな例から確かめられる。したがって,モデルとしては一般的な応答関数を対象として出発すべきである。今回の研究では,2項回帰モデルに関するロバストネスの問題について,基本的な結果を導くことができた。 1.応答関数が任意の分布関数である場合には,これまで用いられてきたプロビットやロジットモデルにおける最尤推定法はロバストでないことが明らかとなった。 2.そこで,最尤推定法に代わって,モデルの応答関数が設定に誤りがある場合にはロバストになるようなM-推定量のうち,モデルが正しいときには最も効率が高くなるものを求めることができた。 3.従属変数の応答の0,1が誤って符号化される「誤符号モデル」を導入し,そのモデルの下での最尤推定量を求めると,それは,上記のM-推定量の一種となることが示された。特に,仮定されたモデルがロジットである場合には,両者は完全に一致することが導かれた。 以上の,2項回帰モデルのロバストな推定法については,これまでの成果として,“Robust Estimation of theBinary Regression Model"という論文を執筆した。現在,シミュレーションの結果を加えて改定作業中であるが,まもなく学術誌に投稿する予定である。
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