証券取引法の適用会社は、1991年3月決算期より、保有有価証券の時価評価額を開示することになったが、銀行はこれより1年早くから、この情報を開示している。本研究は、東京証券取引所第1部上場の銀行が、1990年3月決算期に関して公開した保有有価証券の時価評価額の情報を取り上げ、この時価情報と当該銀行自身の株価動向との関連性を実証的に分析した。 会計情報項目と株価形成の実証的関連性の研究においては、株価変化を従属変数とし、会計情報項目を独立変数とするクロスセクション回帰分析を実施し、株価変化が会計情報項目で説明されるか否かを統計的に判定する方法が広く用いられている。本研究でもこの方法に従い、伝統的な原価主義利益情報と時価主義会計情報(すなわち有価証券の未実現保有利得)の2項目で株価変化の説明を試み、原確主義利益情報を所与としても、時価情報が統経的に有意な追加的説明能力を有するか否かを調査した。 調査の結果、(1)一般企業と同様、銀行についても、原価主義利益で測定した経営成績が良好である企業ほど、株価上昇率も大きいこと、および(2)この関係に加えて、銀行保有証券の時価評価額から算定される未実現保有利得の情報は、原価主義利益を所与としてもなお、銀行間の株価変動のバラツキを追加的に説明するのに十分な能力を有することが判明した。 したがって保有有価証券の時価評価額を企業に開示させるこという新しいディスクロ-ジャ-制度は、適正な株価形成を促進するうえで、当初の目的を達成しつつあると考えることができる。
|