研究概要 |
本研究は1990年夏にカナダのドミニオン天文台において取得した,高分散恒星スペクトルのディジタルデータを統一的な手法で解析し,化学組成上の系統的な知見を得る目的で行った。対象とするデータが大量にあるため,ワークステーションを用いて効率的に解析を進めるシステムを作ることに努力し,一応完成されたシステムが現在稼動している。そのシステムで解析する内,サンプルとした星の中に特に注目すべき性質を示すものをいくつか発見したので,まずそれらについての結果を発表した。その内一つは,強い塩素とコバルトの吸収線を示す星HR1094の発見であった。この星は同時に水銀の線や白金の線も示し,従来知られれていた化学特異星のどのタイプにも属さないものであることが分かった。この星の詳しい化学組成のデータは主系列星の表面に生起している化学特異性現象の解明に役立つであろう。いま一つは,強力な磁場をもつ化学特異星HR7575の解析である。この星は非常に複雑なスペクトルを示すので,まず,吸収スペクトル線の同定表を作製した。このなかから,磁場のゼーマン効果によって変形している吸収線をえらび,吸収線の形と化学組成の統一的な解釈が可能かどうかを研究している。また,分類上は正常なA3型主系列星とされていた95LeOの詳細な研究を行った結果,この星はベガと同じく金属欠之星であることが明らかになった。95LeOはこれまで知られている金属欠之星のなかでは最も低温であり,そのような星の起源を探る上で重要である。 これらの研究と平行して,2個の早期型超巨星αCygとβOriの近赤外波長域の窒素の吸収線の詳細な計算を行い,観測と比較する研究を行った結果,これらの星は窒素が有意に過剰であることを示した。また、AO型星γGemの近紫外スペクトルの解析を行った。
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