最近、中間エネルギー重イオン反応の実験データが多く蓄積されつつあり、これを解析するため、古典論的ボルツマン方程式に基づく数値シュミレーションが広く行われてきている。しかし原子核は本来、量子論的な少数多体系であるので、どのような条件下で古典論的な取り扱いが正当化されるか、理論的に検討されるべきである。この問題に答えるには、信頼でき、しかも古典論的極限としてボルツマン方程式が導かれるような量子論的模型が必要である。我々はこれまで、時間に依存する密度行列理論に基づく量子論的模型を発展させ、原子核の巨大共鳴の減衰過程や低エネルギー重イオン反応に応用し、妥当な結果を与えることを示してきた。科学研究費の交付を受けたこの研究の目的は、量子論的模型を用い、中間エネルギー重イオン反応における古典論的近似の是非の検討を行うことであった。簡単のため、二次元の系を検討の対象とした。 平成3年度は古典論的ボルツマン方程式を解く数値計算プログラムを完成させることを主な目的とした。ボルツマン方程式の数値解が得られた段階で、これまで提唱されてきたいくつかの数値シュミレーションの方法の妥当性の検討を行った。これらのシュミレーションに基づく数値解は、定性的にはボルツマン方程式の解と一致するが、現在の近似法のままでは統計的なゆらぎが大きく、定量的な情報を引き出すことは困難であることが明かになった。この結果は論文にまとめた。 平成4年度は二次元の系に対して、量子論的模型である時間に依存する密度行列理論(TDDM)の解を得るための数値計算プログラムの開発を行った。TDDMの解は定性的には古典論であるボルツマン方程式の数値解と同じような時間的振舞いをするが、定量的には明確に異なる点があることが明らかになった。それは核子・核子散乱による散逸過程の始まりが、TDDMでは非常に遅いという点である。これはTDDMの散乱項の「記憶効果」に由来していると考えられる。この結果は論文にまとめた。
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