研究概要 |
最近、X線分光法を用いて遷移金属錯体の電子構造の研究が活発に行われている。我々も又これまでに、基本的な錯体である正八面体価位と正四角形価位の遷移金属錯化合物の中心金属のKとL吸収スペクトルと配位子(F.S.C1)のK吸収スペクトルを測定し、空の電子状態の研究を行ってきた。ところが、これら化合物の価電子帯を反映するX線放射スペクトルは殆ど研究されていない。そこで本研究では3d,4d,5d遷移金属化合物のFKα,Clkβ,Skβ,Rhlβ_<2,15>,Pdlβ_<2,15>放射スペクトを精密測定し、以前測定した光電子スペクトル及び吸収スペクトルと比較検討した。得られた結果は次の通りである。 1.3d遷移金属フッ化物MF_2(M=Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn)のFKα_<1,2>放射帯の半値幅は金属とフッ素の電気陰性度に密接に関係する。 2.上記化合物のFkα放射帯とFK吸収端構造はその8面体クラスターMF_6^<4->の分子軌道でよく説明できる。 3,遷移金属硫化物TiS_<2X>ZrS_<2X>のSKβ放射とSK吸収スペクトルはその価電子帯と伝導帯の状態密度の計算結果とよく合う。 4.(NH_4)_3RhCl_6,Pdcl_2,Pd(ac)_2,Pd(acac)_2のX線放射と吸収スペクトルはその平面四辺形クラスターの分子軌道で説明できる。 上記研究の発展として含水金属塩化物のClKβ放射スペクトルとCa化合物CaF_2,CaO,CaSのCaKαとKβ放射スペクトルを精密測定し、以前測定した光電子スペクトルと比較検討し、次の結果を得た。 1.含水金属塩化物のClKβ放射スペクトルに水分子の影響が現れる。 2.Cakα_<4,2X>Kβ_<1,3>とKβ_5ピークにケミカルシフトが観測される。 3.Cakα"サテライトの強度は共有性と密接に関係している。 4.CaKβ_5放射帯は陰イオン(F^-,O^2,S^2)のp価電子帯からCa_1sレベルへのクロス遷移に基づく。
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