研究概要 |
本研究では,DNAと光学活性な金属錯体との相互作用を主に電気二色性の測定によって研究することを目的とした。電気二色性は溶液中でのDNAと低分子量分子との結合状態を知る上で極めて有効な手段であると考えられた。 そのためまず,電気二色性装置を製作した。これによって0〜5kv/cmに電場を0.1〜10msecの巾で印加することができるようになった。700ー200nmの範囲のスペクトルが測定可能となった。 用いた錯体は,[Ru(bpy)(phi)]^<2+>(phi=9,10・フェナンスレンキノンジィミン)である。この錯体はphiという大きな平面性配位子とそれよりも小さいbpy配位子から成る。この錯体の合成と光学分割法を確立した。光学分割はCMセファディクスカラムで可能なことが見出された。 DNAとの相互作用をまず吸収スペクトルによって調べた。吸光度(530nm)の変化から吸着手衝を調べた結果,錯体は1分子あたり4個の塩基対を占有することがわかった。結合定数に光学異性体間で差はなかった。円二色性スペクトルは光学異性体で顕著な差が見られた。すなわちΔ体はphiの吸収にもとづくピ-クはDNAと結合することによって負かる正に符号を変えたのに対して,∧体は正の符号のままであった。これはphi配位子がDNAのらせん構造の影響下にはいることを示唆している。電気二色性の測定から結合状態に関する重要な知見が得られた。phi配位子にもとづく吸収の電気二色性から,どちらの異性体においても,この配位子はDNAのらせん軸と垂直方向を向いていることが結論された。この配向は,phi配位子がDNAの塩基間にインタ-カレ-トしている構造とよく一致している。
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