研究概要 |
近年、希土類元素の特性を活用した有機合成反応の開発研究が盛んに行われるようになり、極めて興味深い反応や実用性のある手法が開発されている。しかしながら、従来の研究は化学量論量の試薬を用いるものが大部分であり、触媒反応はごく僅かである。特に希土類を用いる不斉触媒反応は、新規な合成手法の開発の点で多くの有機化学者の関心を集めているが、光学活性体の合成が困難であるが故に、従来から知られているNMRのシフト試薬を用いる反応に限られていた。 我々は希土類元素と酸素原子の強い親和力に着眼し、リン原子上に不斉中心をもつ光学活性ホスフィンオキシドと3価および千価の希土類塩との錯体の合成を行った。さらにそれらを用いる不斉触媒反応を試みた。 最初に軸対称性をもつ光学活性ホスフィン配位子の一般的かつ高効率的な合成ル-トの開拓を行った。その結果、不斉源としてメント-ルを用いて、アルキルジクロロホスフィンより短工程で光学的に純粋な1,2ービスホスフィノイルエタンを合成する経路を確立することができた。つぎにこの手法で合成した、1,2ービス(tーブチルフェニルホスフィノイル)エタンと塩化ランタン,塩化セリウム(III),硝酸セリウム(IV)アンモニウムとの反応を行い,対応する錯体を単離した。各種スペクトルデ-タより、ランタニドイオンに2分子の配位子が結合しているものと推定された。さらに塩化セリウムから合成した錯体についてはXー線結晶解析を行った。その結果、この錯体は2つの配位子と3つの塩素原子および1分子の水を含む8配位錯体であることがわかった。さらに、ビスホスフィンオキシドが7員環のキレ-ト型でセリウムに結合し、これらが同一平面上にある、極めてめずらしい構造であることも判明した。 現在、この錯体の不斉触媒能について検討中である。
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