研究概要 |
本研究によって得られた成果のうち、主な二点について述へる。1.アルケンの過マンガン酸酸化をエトキシドイオンの存在下で従来の我々の方法(4級アンモニウム塩を用いてジクロルメタン中で行なう)によって行ない、分光光度計(今回購入)によって反応追跡をしたところ、これまで有機溶液中ではまったく観測が報告されていない新たな青色の中間体マンガン種の生成が見られた。スペクトルは320および650nm付近に吸収極大を示し、アルカリ水溶液中における無機5価マンガン酸イオンのものと酷似していること、分解過程を中性条件下で生成するこれまでの黄褐色の5価中間体マンガン種との比較検討した結果等から、この青色のマンガン種は5価マンガン酸エステルイオン中間体にエトキシドイオンが配位した5配位の5価マンガン種であろうと結論した。2.対称的および非対称的に置換された数種の4,4^1ージー、および4ーモノ置換スチルベン誘導体について、ジクロルメタン中における過マンガン酸酸化反応の速度論実験を行ない、置換基の反応速度に及ぼす影響を検討した。その結果、電子吸引性の置換基についてはモノ置換、ジ置換体ともに正のρ値(+1.0)によってハメットプロットによくのることがわかった。このことはジ置換体の反応における遷移状態の構造が対称であり、二つの置換基の遷移状態の安定性に対する寄与が同等であることを示している。すなわち、このことから、過マンガン酸イオンと二重結合の反応機構としてこれまでにいくつか提唱されているものの中、非対称なイオン型の遷移状態(Lee,1982)や1,3ー双極子付加反応型(Freeman,1989)のものよりも、無極性のDielsーAlder反応タイプの遷移状態を経由する機構の方が適当ではないかとの結論を得た。これらの結果は日本化学会またはアメリカ化学会等の雑誌に公表するべく準備中である。
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