研究概要 |
ペプチド性抗生物質ラベンドマイシン(LA)やアントリマイシン類(AT)はその骨核内にαーデヒドロアミノ酸(DHA)やジアミノブタン酸(Dad)など多くの異常アミノ酸残基を有する直鎖状ヘキサおよびヘプタペプチドである。LAはスタフィロコッカス類に強い抗菌性を示し,ATは人型結核菌に対し特異的に発育阻止作用を示す。両者の共通機成アミノ酸であるDabはスレオニンを出発原料として4種の光学異性体(TDHP)の合成法を確立した。また,C端デヒドロトリペプチドの合成は我々が開発した△NCA法を用いてそれぞれ合成した。LAのβーメチルアルギニンはセリンおよびグルタミン酸を出発原料として,立体配置の異なる(S,R)および(S,S)体を合成した。一方,ATの重要な構成アミノ酸である2,3,4,5ーテトラヒドロピリダジンカルボン酸(THPC)はEvansらの不斉アルド-ル縮合を鍵反応として初めて合成に成功した。これら新規に合成した異常アミノ酸類を用いてTDHPからのN端伸長法およびフラグメント縮合法によりLAおよびATの全合成に成功した。 さらに,チアゾ-ル含有ペプチド性抗生物質であるミクロコッシンPはチアゾ-ルデヒドロアミノ酸(ThzーAA)を有し,グラム陽性菌が作る蛋白合成を阻害する抗生物質である。その構成単位であるThzーAAの合成はDHAから誘導したデヒドロアミノチオアミドとβーブロモピルビン酸エチルとのHantzsch反応を利用して達成した。この手法を△NCA法により合成したデヒドロペプチドに用いることで,チアゾ-ルデヒドロペプチドの合成を行うとともに,さらにチアゾ-ルアミノ酸を縮合することで,ミクロコッシンPの重要な骨格であるペンタチアゾ-ルデヒドロペプチドの合成にも成功した。このことからミクロコッシンPの全合成ならびに構造活性相関についての研究へ大きく近づいた。
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