研究概要 |
各種物質中の極微量元素を高精度で定量分析するため、室蘭工業大学に設置されているクリーン実験室内の清浄な空気流のもとで、Ag、Tl、Cu、Cd、Ni、Pb、Zn、Feの各元素について、定量分析操作中に試料に入り込む汚染量(ブランク値)を測定した。分析操作は、上記8元素を連続的に抽出・分離可能な、ジチゾン-クロロフォルム溶媒抽出法を対象とした。また分析に用いた純水、硝酸、過塩素酸、アンモニア水はSub-boiling法により、クロロフォルムは蒸留法により、ジチゾンは再結晶により、それぞれ繰り返し精製した。その結果鉄を除く7元素については、中村ら(1986)*の結果と同様、世界のトップクラスの低いブランク値であることが確認された。 次に使用容器類から溶出するブランク値の低減と再現性の問題を検討した。本研究では、分液ロート及びビーカはFEP Teflonを使用し、硝酸(1+1)で3日以上浸漬した後、純水で充分に洗浄した。更に洗浄した容器に純水を満たし、一昼夜放置して容器内壁に吸着されている極微量元素を純水と置換させることによりブランク値を低減させた。また抽出操作の各ステップごとに、Pre-conditioning操作を加えることにより、ブランクの再現性の向上を計った。その効果の定量的評価は出来なかったが、鉄のブランク測定での結果から、その有効性が推定できた。 超微量鉄は、精度、確度ともに高い同位体希釈質量分析法による定量法の確立に世界的に最初に成功した。定量限(絶対値)は0.2ngであり、純水の鉄ブランク値は5.9pptであった。この値は、ブランクの低減が難しい亜鉛に比較しても、50倍も高値であり、本実験室からの汚染の影響が大きく影響した結果である。本クリーン実験室のブランクは2.6ngであった。結局、分析環境中のブランクにより、鉄の定量下限が規制されることが明らかにされた。*中村・茶木・室住,日化誌,1988,No.5,p.735-742
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