研究概要 |
安定度定数が測定方法によって異なるということは以前から議論の対象になってきたがその原因については解明されていなかった。本研究ではこれを明らかにするために,レ-ザ-ラマン法,吸光光度法,陽イオン交換法などを用いてニッケルーチオシアン酸系,コバルト(II)チオシアン酸系及びセリウム(III)一次亜リン酸系における各1:1錯体の安定度定数を測定算出し,それぞれの値を相互比較した。その結果,方法により大きな相違を示すことが確認され,大小関係は次のようになった。 Ni^<2+>ーSCN^-…6.2(吸光)<12(イオン交換)<22(ラマン) Co^<2+>ーSCN^-…6.6(吸光)<10(イオン交換) Ce^<3+>ーPH_2O^-_2…1.3(吸光)<24(イオン交換) いずれの系においても吸光法の値はイオン交換の値より小さく,特に3価金属Ce^<3+>の錯体で著しかった。この原因はれっきとした化学的要因であり,水溶液中で金属イオンの周囲に数個の配位子陰イオンがゆるく集合して擬クラスタ-を形成していることで説明された。クラスタ-内部の金属イオンは配位子と直接結合していなくても外部からは遮蔽されておりイオン交換吸着能が低下し,錯体生成と同じ効果を与えることになる。一方,ラマン法が最大値を示すのは,他の方法では錯体として検出しがたい状態例えば外圏型ないし水和イオン対までも,金属イオンが配位子伸縮振動を抑制し,見かけ上錯体の存在率を高める効果を持つからである。このような安定度定数値の相違の主因は,各測定法の溶存状態に対する本質的な認識能の差にあると結論した。
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