研究概要 |
近年,金属酵素の基質認識に対する興味から,そのモデルとしての金属錯体を用いた配位子間相互作用やホストーゲスト会合に関する研究が多い。この研究では修飾ボルフィリン亜鉛錯体を合成し,軸配位子としての種々のアミンに対しての分子認識能について検討した。 1.テトラフェニルポルフィリンの両面に堅牢で適度な大きさの“キャビティ"を持つ“ビス・ル-フ"型ボルフィリンを合成した。これに亜鉛イオンを導入し,目的の亜鉛(II)錯体Zn(BRP)を得た。 2.このホスト錯体と軸配位子としての種々のアミンとの平衡定数を可視吸収スペクトル変化から求めた。また,比較として,“ピケットフェンス"型ボルフィリン亜鉛錯体Zn(PFP)に対しても同様に測定した。 3.ポルフィリン面の片側だけに修飾を受けたZn(PFP)は軸配位子が非修飾側から配位するため,アミン類に対しての立体選択性(認識能)は示さなかった。これに反し,Zn(BRP)は明白にアミン類に対して認識能を持つことがわかった。すなわち,立体的に小さいプロピルアミンやブチルアミンよりも,より嵩高いアゼチジン,ピロリジン,およびジエチルアミンが7〜22倍強くZn(BRP)に結合する。また,さらに嵩高いジプロピルアミン等はキャビティとの立体反発により,逆に結合が弱くなる。測定溶媒をトルエンからクロロホルムに代えた実験結果から,これらの認識能に溶媒効果は関与しないことがわかった。 4.以上の結果から,立体的にキャビティの大きさにうまく適合する形状のアミンが最も強くZn(BRP)に結合することがわかった。この立体選択性(認識能)は主として,ロンドン力やCHーπ相互作用のような非極性配位子間相互作用と立体反発力とのバランスにより発現すると結論付けられる。
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