研究概要 |
アルコキソ酸素やフェノキソ酸素を架橋原子とする二核形成配位子を用いてII価あるいはIII価の二核マンガン錯体を生成させた。これに塩化物イオン等各種のハロゲン化物、擬ハロゲン化物イオンを反応させてどのような複合錯体が形成されるか単離を試みた。シッフ塩基配位子、1,5ービス(サリチリデンアミノ)ー3ーペンタノ-ル(H_3L)を基本骨格とする二核マンガン(III)錯体の場合、単結晶として得られた錯体はX線結晶解析より[Mn_2(L)(CH_3O)(CH_3OH)_2Cl_2],[Mn_2(L)(CH_3O)(CH_3COO)(CH_3OH)_2]X(X=Br,I),[Mn_2(L)(CH_3O)(CH_3COO)(CH_3OH)X](X=ClO_4,I,NCS,N_3),[Mn_2(L)(CH_3O)ー(NCO)_2(H_2O)_2]の複雑な組成を有することがわかった。これらはいずれもシッフ塩基配位子のアルコキソ酸素及び溶媒由来のメトキソ酸素が2個のマンガンを架橋した骨格を基本単位とし、これに種々の陰イオンや溶媒が集まって錯体が形成されている。この中で塩化物イオンを始めとする陰イオンは、架橋基として取り込まれることはなくシッフ塩基が形成する平面に対して軸方向から弱く配位し、しかも配位した溶媒との水素結合によって安定化されている。水分子が配位した場合も陰イオンとの水素結合が認められ、水分解機構において水素結合が重要な役割を果たしている可能性が示唆される。また水の存在下、二核単位が集まって四核マンガン錯体が安定に生成することがわかった。これらの複合錯体において陰イオンの位置はマンガンからは遠いとはいえ、電子スペクトルや磁気的性質に微妙な影響を与えている。フェノキソ酸素架橋配位子の場合、陰イオンが多く存在すると二核マンガン錯体が単核マンガン錯体に解離することが、また陰イオンの種類によってはマンガン(II,III)混合原子価状態が安定化されることがわかった。以上の結果は、光化学系IIのモデルを考える上で重要なデ-タである。その他大環状配位子の生成等、錯体化学的にも興味深い成果があった。
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