研究概要 |
植物における細胞質ゲノム(葉緑体-ミトコンドリア)間での遺伝物質の転位機構及び転移先ゲノム内での維持機構を解析するため,葉緑体遺伝子のミトコンドリアゲノムへの転移を調べた。全塩基配列が既知のイネ葉緑体DNAから,機能が判明している5遺伝子(atpA,psaA,rbcLトランスプライスする5'-及び3'-rbs12)の特異的プローブを作成した。これらのプローブをパンコムギミトコンドリアDNAのマスターサークルを含むコスミッドクローンとサザンハイブリダイゼーションを行い,転位の有無を調べた。5遺伝子のうち,rbcLを除く4遺伝子の転移が確認された。これらの4遺伝に関して,転位領域付近の微細地図を作成し,転位領域を特定した。4遺伝子は,いずれもほぼ遺伝子単位で転位していたが,遺伝子の一部が欠失しているものがあった。トランスプライスする5'-rps12,3'-rps12遺伝子がマスターサークル上異なる位置に転位していること,転位したDNA断片に介在配列が存在することから,DNA断片そのものが転位したことが確認された。コムギ・エギロプス属植物の葉緑体ゲノムはRFLP分析から17型に分類される。葉緑体DNAの変異と転位したミトコンドリアゲノム内での葉緑体遺伝子の変異を比較するため,転位した4種の遺伝子をプローブとしたミトコンドリアDNAのRFLP分析を行った。転位した領域のRFLPからみた類縁関係は,元の葉緑体DNAに基づくそれとは異なっており,ミトコンドリアゲノムにかかる独自の淘汰が示唆された。変異の様相は遺伝子により大きく異なっており,個々の遺伝子の変異性を明らかにした。
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