研究概要 |
エラブオオコウモリの食物は果実(17種),花(5種),葉(9種),樹皮(1種)及び昆虫(8種)で多様であった。果実への依存度は高いが,不足分を春には主に花,夏に昆虫,冬に葉を摂食することで補っていた。ねぐらは,風が直接入り込まない谷間の斜面や平地の高木樹冠内であった。ねぐら場所に対する保守性は強くなく,日毎にねぐらを変える個体もいた。秋の個体を除けば,ねぐら場所から摂食場所への移動距離は1.5km以内で比較的に短かった。行動域は33ha以内で季節によって変化しており,雌雄差もみられた。すなわち,非繁殖期には被食植物の分布状況とねぐら場所の位置によって大まかな行動域が決定されていた。 本種では交尾が9月中・下旬に始まり10〜11月にピ-クに達する単発情周期型を示していた。秋には雌雄が夜間特定の場所(巨木)へ集合し,数組のペアが形成され,集団の周辺部に移動したペアにおいて交尾行動がみられた。交尾後,雌が先に去りペアは解消した。雄は交尾期間に何度もこの集団に参入するが,テリトリ-を形成しなかった。昼間は雌雄それぞれ単独で睡眠・休息していた。すなわち,離合集散的な社会構造が交尾期を通じて認められる。妊娠期間に関して,出産のピ-クを5〜6月にすると,その期間は約7カ月と推定される。これは他のオオコウモリ属の妊娠期間に比べて長く,本種の胚発生遅延の可能性を示唆する。出生から約5カ月間の急速な成長過程の中で,8月頃(生後約3カ月)に離乳が行われ,幼獣は9〜10月(生後4〜5カ月)に母親から独立して単独行動すると考えられる。性成熟に関して,亜成獣雄の秋における精巣サイズは同時季の成獣雄の1/2にすぎなかった。すなわち,出生年の翌秋(16カ月齢)では精子が形成されず,翌々秋(28カ月齢)以後に繁殖に関与すると考えられる。本種雌の繁殖関与年齢については不明で,今後の課題である。
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