研究概要 |
本研究で7目17科33種のセン類の減数分裂を観察することができた.その結果からつぎの新知見を得た.1.セン類ではテトラポッド型の胞子母細胞を有するのは,すべてスギゴケ科のものに限られていた.同科の属とされるフウリンゴケ属は球形の胞子母細胞であったことから,その所属が妥当性の問題が浮上した.2.現行の分類学的位置から判断して,特異な形態の胞子母細胞が期待されたミズゴケ属とクロゴケ属のものについてはいずれも球形ないし類球形のものであり,胞子母細胞の外形だけでは現行の高次分類群と直接関連づけるに足る情報は得られなかった.3.クロゴケ属では他のセン類では見られない胞子四分子形成を観察した.すなわち,一般のセン類では胞子四分子が完成した状態で,胞子母細胞の壁内部に4個の胞子が互いに遊離した状態で収まっているが,クロゴケでは4個の胞子が重なり合って密着している.さらにその胞子壁は著しくしわを持っている.これらの胞子が,胞子母細胞から放出されると急速にそのしわとなった壁が伸展して,体積を増大する.このような現象はセン類では他に知られていない極めて特異なものである.4.本研究の直接の研究標的ではなかったが,セン類の高次分類群を考察する場合に極めて注目に値すると考えられる事実をつきとめた.すなわち,ミズゴケ亜綱,クロゴケ亜綱での胞子体の発達様式について,胞子体は胞子散布可能な状態になってはじめて,苞葉という保護器官から姿をあらわすが,この現象はまさにタイ類で観察されるものである.一般のセン類では胞子体は苞葉から早い時期に姿を表わし,徐々に発達して成熟し,胞子形成を行なう.5.球形の胞子母細胞をもつものでも細胞質がテトラポッド型にくびれることが減数第二分裂で明らかに認められるものが頂生セン類群に集中していること,減数第一分裂中期までにそれが観察されるのは腋生セン類群に集中していることが明らかになった.
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