研究概要 |
昆虫の脂肪体は脊椎動物の肝臓と脂肪組織の機能を合せ持つ組織であり各種酵素および体液タンパク質を発生段階特異的かつ性特異的に活発に合成している。本研究は脂肪体における遺伝子発現の調節機構を解析することを目的とし,カイコ脂肪体細胞核から組織特異的無細胞転写系を確立することに重点を置いた。以下にその結果について述べる。 雌の5齢2日目のカイコ幼虫から脂肪体を摘出し,ホモゲナイズバッファ-の浸透圧,塩組成,界面活性剤の有無等の条件について検討を加えた。その結果,最も効率良く核が分離できる方法は次のとうりであることが判明した。まず脂肪体をMg^<2+>を含むバッファ-中に放置し,細胞を十分膨張させた後テフロンーガラスホモゲナイザ-を用いて0.1%トライトン存在下でホモゲナイズする。このホモゲネ-トをステンレスメッシュを使いろ過した後,低速で遠心し粗核分画を得た。このようにして分画した核をエチジウムブロミドで染色した後螢光顕微鏡で観察すると他の方法により分画した核に比べ,核表面に付着している脂肪顆粒がきれいに除去されていることが明らかとなった。この粗核分画より核タンパク質を0.4M NaClで抽出し,無細胞転写系を調製した。この転写系により,カイコ貯蔵タンパク質SPIの遺伝子の転写を試みた。コントロ-ルとして培養細胞B_<n1>Nより調製した転写系を用いた。脂肪体核転写系はSPI遺伝子を忠実にしかも効率良く転写することが明らかとなった。この転写系を用いることにより、今後遺伝子の転写を制御するシスコントロ-ル領域を検索することが可能になったと考えられる。またトランス作用因子もこの核抽出液より分離可能であろう。
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