研究概要 |
本研究において実行した研究内容は大きく次の2点にまとめられる。1つは飛騨片麻岩中の花崗岩質ミグマタイトの研究であり,2つ目は中生代前期花崗岩類に関する研究で,各々のグループの分布・産状・岩石学的性質を調べ岩体の帰属を明らかにし,またスカルン鉱床の形成がそれらとどのような関係にあるか検討した。 (1)に関しては主に単斜輝石を含む花崗岩質ミグマタイト(いわゆる伊西ミグマタイト)について,単斜輝石の化学組成の広域的変化と神岡型スカルン鉱床の分布との関係を検討した。本岩は神岡鉱床の母岩として重要な岩石である。しかし伊西ミグマタイト中の単斜輝石は,主に岩石の全岩化学組成に支配されており,鉱床分布とは無関係に変化していること,鉱化作用による鉄の移動は鉱床近傍の断裂に沿って行われていることがわかった。これらは鉱床生因論に一定の制約条件を与える。 (2)の中生代前期花崗岩類は,飛騨帯に最も広く分布し,飛騨帯を日本の他地域とは異なる花崗岩岩石区たらしめている。これらは従来「船津花崗岩」とよばれジュラ紀に一斉に形成されたとされてきた。しかし詳細な野外調査の結果,(1)同花崗岩の模式地である神岡鉱山東方においても構造的に新旧2期にわかれること,(2)従来より早期とされた大之本岩体がより後期とされた船津岩体を貫くこと,(3)旧期は多分三畳紀,新期はジュラ紀に相当するらしいこと,(4)旧期岩体の一部は変形・変成作用を受け眼球片麻岩化すること,(5)東アジアの花崗岩活動との対応から見ると旧期はインドシナ期,新期は燕山期に対応できる,等がわかった。 これら新旧の区分は,単に飛騨帯の花崗岩活動を正確にした,ということのみにとどまらず,東アジア全域での古生代から中生代にかけての花崗岩活動の変換点を示しており,アジア大陸の花崗岩活動の理解の上でも重要な意義をもっている。
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