古代人の性差とその時代変化を明らかにするために、九州大学医学部所蔵の古人骨について分析した。まず北部九州の甕棺墓から出土する弥生人の性差を、マハラノビス距離、ペンロ-ンの距離等で求めたところ、先行の縄文人に較べて全体的にかなり性差が縮小している傾向が示された。特に脳頭骨と顔面骨とのサイズ比や顔面部の上、下半のプロポ-ション等において、縄文集団の弥生集団ではその性別に顕著な違いが見られ、いずれも北部九州弥生人で減少していた。また、同じ弥生集団でも西北九州弥生人や種子島の広田弥生人では、形態のみならず、性差でも縄文的傾向を持つことが明らかにされた。次に、北部九州における縄文時代から、弥生、古墳、中世、近世、現代に到るまでの各時代の性差を比較したところ、頭蓋、四肢ともに、性差は縄文から弥生、古墳にかけて減少した後、中世、近世、にかけて再び大きくなる傾向を見せ、特に江戸時代の非都市部居住の住民で著しいことが明かとなった。こうした傾向が当地域に特有なものか、それともある程度の汎日本性を持ったものなのか、その点を明らかにするためにも他地域との比較が必要だが、比較的資料が揃っている関東地方出土人骨について、現在までに収集したデ-タに基づく分析結果では、少なくとも縄文から古墳時代にかけての変化にはかなり違いのあることが示唆されている。一方また、一般的には環境圧に対して男性形質の方が不安定なことが知られており、今回得られた結果でも、比較的男性で大きな変化が見られ、それが性差の主因となっている状況が窺われたが、具体的にどの様な要因が各時代に働いたのがは現時点ではまだ不明確であり、今後は関東地方をはじめとする他地域との比較を通して、出自の違いや生活文化、自然環境等における各種要因との関連を追求していく必要がある。
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