研究概要 |
ダイヤモンド工具の摩耗に関与すると考えられる基本プロセスを調べることから研究を開始し,以下の知見を得た。 1.ハ-ドウェアとして,名大ス-パ-コンピュ-タへのアクセスを容易にする為,設備費により計算機ネットワ-クを構築した。 2.工具と被削材原子間に化学的反応性が乏しい場合の切削では,被削材原子が工具(ダイヤモンド)内に進入することはないが,反応性が強いと切削中に被削材原子がダイヤモンド内に入り込む。この時,ダイヤモンド内の炭素原子との間で強い反撥力が発生し,ダイヤモンド構造を破壊する可能性を生む。この事実は,AlやFe切削時の著しい工具摩耗をかなり良く説明する。 3.工具すくい面及び逃げ面上での被削材原子の動きを調べると,せん断が起こるのは工具原子と被削材原子との間ではなく,工具原子に捕捉された被削材表層原子と,これより内部での被削材原子との間で起こることが判明した。これは工具すくい面でのせん断応力が,被削材のせん断降伏応力になるという実験事実を見事に説明する。またこのせん断すなわち転位の運動に伴ってインパルス状の発熱(原子の運動エネルギ獲得)が起こることは既に報告したが,せん断が被削材原子間で起こることを考慮すると,Cu,Al,Fe間での発熱量に著しい差違は認め難い。したがって発熱のみによってCuとFeとの著しい工具摩耗の違いは説明できない。 4.以上より,実際の摩耗プロセスは,発熱により活性化した被削材原子が,工具原子との反応性の障壁をとび越えて工具内に進入し,破壊するプロセスとほぼ結論できる。現在,この熱活性化のプロセスをシミュレ-トするアルゴリズムの有効性を,Cuの自己拡散プロセスに適用して験証中である。
|