研究概要 |
ディーゼル機関あるいは電子制御燃料噴射式ガソリン機関の低速無負荷運転において低速ハンチングと呼ばれる数ヘルツの遅い自励的回転速度変動が発生する。現実の機関では,小形化・出力増大を図るほどハンチング発生領域は広がり,変動振幅は増大する。 この現象に関する過去の研究は,線形理論により平衡点の安定性を調べたものがほとんどであり,大振幅のリミットサイクルが発生するかどうかは確言できない。しかも,線形理論による平衡点の不安定と実験における大振幅のリミットサイクルの存在が一致しない場合があった。著者は,これまでに微小変動からリミットサイクルが生まれる過程を計算機シミュレーションにより定量的に明らかにした。 本研究では,閉ループ機関調速機系ハンチングの振動数が低いということに着目して,閉ループ系の1自由度近似を試み,負の制振力(励振力),運動の復原力および慣性力を明かにし,さらに不安定な微小振動が成長して大振幅のリミットサイクルに至る機構に物理的説明を与えた。また,リミットサイクルの定常振幅を解析的に求め,実測値およびシミュレーション結果によく一致することを示した。解析解は,閉ループ諸因子とリミットサイクルの振幅および振動数との関係を見通しよく与える。 さらに,計算機シミュレーションと解析解を対照することにより,1自由度近似系で説明できない非線形挙動について検討した。低い回転数において,線形理論では不安定を示すのに実験およびシミュレーションではほとんど変動を示さない理由は,各シリンダの吸気行程に基づく噴射量調節棒の短周期変動により調節棒がストッパに衝突することによることが明らかになり,調節棒の可動域を広げると低速域においてもハンチングが起こることが実験でも確かめられた。
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