研究概要 |
地下水は,帯水層が地下深部に位置するため,水温が年間を通じ安定しているという優れた特長をもっている.こうした地下水の熱的特長を,地盤沈下等を生ずることなく有効に利用する技術として,井戸注入による帯水層への熱エネルギ-貯留技術が検討されている.この技術は,自然エネルギ-の有効利用策として可能性が期待されているが,一方で,地域の地下環境を人為的に乱す恐れがあり,実施にあたっては慎重に検討を重ねなければならない.本研究では,地下水の熱的利用に当たって,基礎的な検討課題である「飽和浸透流に伴う熱拡散機構の解明」をめざして,詳細な室内実験とモデル解析を行った.本研究から得られた知見は以下のとおりである. (1)カラム上下端の水頭を固定した実験では,温水浸透に伴って移流速度の顕著な増大がみられる.これは,流体温度の上昇により透水係数が分数関数的に増大するためである.本研究では,温水浸透下において流量を一定化するために,透水係数の増大を動水勾配の低下として吸収するような実験手法を考案・導入したところ,良好な結果を得た.こりにより,流れの定常化が図られ,熱拡散現象のみを詳細に検討することが可能となった. (2)カラムに埋設された温度センサ-によって測定された温度上昇曲線は,立ち上がり部分に比べ平衡温度に漸近する部分が緩やかで,前後に非対称に歪んだものとなる.この現象は,とくに粒径が小さい場合に顕著である. (3)実験値から熱輸送モデルの熱拡散係数κを同定したところ,流速に対し線形的に増加する傾向が確認された.また,κに含まれる熱分散率は,溶質の分散率と同様に,流れの空間スケ-ルへの依存性が高いことが示された.
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