研究概要 |
ガルフクライシスによる原油価格の高騰,為替レートの変動,来たるべき欧州統合を前にして,日本の産業構造はいま再び新しい変動を余儀なくされている。特に,近年の技術革新はめざましく,産業構造に多大な影響を及ぼしつつある。本研究では,このような問題意識の下に,技術革新を内生化した実用的な地域動学モデルの開発をめざしたものである。初年度である平成3年度においては,地域動学モデルの理論的検討,ならびにその実用化に関する研究を実施した。本研究で開発した地域動学モデルはレオンティエフが開発した動的I-Oモデルの枠組みの中で投入産出係数,資本係数が製品原材料価格や社会資本の整備状況に対応して内生的に決定されるところに特徴がある。初年度はこのような動学モデルを開発するために2部門を取り扱ったプロトタイプモデルを作成した。その結果,技術革新を内生化した地域動学モデルは高度の非線形性を有するために,動学モデルの安定性に関する検討が不可欠であることが判明した。このような安定性の検討に関してはモデルが複雑になればシミュレーションに頼らざるを得ない。そこで,最終年度ではシミュレーション分析を通じて動学モデルのプロトタイプモデルの動的運定性に関して数値実験を試みた。その結果,徒来の前方ラグ型の動的I-Oモデルでは,モデルの挙動が不安定になることが判明した。一方,動的I-Oモデルを後方ラグ型に再定式化し直すことにより,安定的な成長経路が得られることが判明した。以上で開発したような技術革新を内生化した動的I-Oモデルにより,知識・社会基盤の整備が技術革新や産業構造の異動に及ぼす影響を動的に追求することが可能となった。本研究代表者の知る限りこの種のモデルは本研究で提案したモデルが初めての試みである。今後,多地域動学モデルへの拡張を通じて,モデルの実用性の向上を図っていきたいと考える。
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