研究概要 |
炭酸濃度を0.04〜1.8%Cまで変えた炭素鋼を用いて上部・下部ベイナイトの生成温度域を顕微鏡法により調査し,膨張測定法による速度論および電子顕微鏡法による結晶学的研究を行った。本研究をとおしてベイナイト変態機構に関し得られた成果をまとめると以下のとおりである。 1.母相オーステナイト中で熱揺動により局所的に低炭素領域が生じ,その微小領域のMs点が恒温浴温度以上になったときベイナイトフェライトはせん断的に核生成する。このような濃度を以後Ms点濃度と呼ぶことにする。 2.上部ベイナイト変態域では炭素原子の熱揺動が活発で,核の周囲の炭素濃度がこのMs点濃度まで低下したときせん断的に成長する。炭素原子の熱揺動は下部ベイナイト変態域では不活発となり,一方,フェライト生成の化学的駆動力が増大する結果,Ms点濃度まで低炭素化しなくてもTo点下約50℃の過冷域ではせん断的に成長できる。 3.上部ベイナイト中のラス界面に析出した炭化物はベイナイトフェライト生成後にラス界面にオーステナイトから直接析出したものである。 4.下部ベイナイト中の炭化物はベイナイトフェライトの成長と同時にオーステナイトとフェライトの界面にオーステナイトから折出し,その後フェライトがそれを包込んだものである。界面折出のため一方向に揃って折出した形態をとる。 このメカニズムにより,(1)Bs点が炭素濃度に依存することなく600℃一定であること,(2)三種類の上部ベイナイト(BI/BII/BIII)および下部ベイナイトの形態変化の理由,(3)上部ベイナイトから下部ベイナイトへの遷移温度が350℃一定であること,等が説明できた。 これらの成果をもとに現在4編の論文を作成中である。
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