研究概要 |
(1)層状金属オキシハライドの固体触媒としての利用 アルカンの接触的部分酸化に高活性、高選択的な固体触媒の開発を目的として、層構造を有する金属オキシハライドの触媒機能の高性能化、インテリジェント化を図るための基礎情報をさらに収集した。メタン酸化における構造活性相関を検討するため、層構造の構成ユニットおよびその組み合せが異なるいくつかの触媒を合成し、活性、選択性を整理した。ハロゲンイオン層の多重度を順次減少させ、ハロゲンイオン層が1となった時点からは金属酸化物層の多重度を増加させた。ハロゲンイオン層の多重度が減少するにつれて酸化活性は低下し、反対に触媒に安定性は富むようになった。中間に位置する触媒が最も選択性が高くなり、層構造制御により触媒性能をチューニング出来ることが判った。さらに、エタンの酸化反応を行ったところ、上記層状金属オキシハライドはエタンの酸化的脱水素反応にも高い活性を示し、95%以上の高い選択率でエチレンを与えることを見いだした。 (2)高分解能電顕(HREM)およびコンピュータグラィックスによる構造解析 本研究の中心をなす試料の構造決定は、容易に単結晶を得ることができないので、XRDに基ずく格子定数、予想空間群と推定元素組成に加え、高分解能電顕(HREM)およびコンピュータグラフィックスの支援を得て、構造解析を行い、新規物質の確認を行った。 (3)層状金属オキハライド触媒上でのメタンの酸化カップリング反応の速度論 速度論的研究の結果および気相のハロゲンイオンがあっても反応には関与しないとする結果より、触媒表面上のハロゲンイオンが直接アルカンを活性化し、その能力は金属酸化物層との電子移動のされ易さによって決定されると結論とした。 (4)層状金属オキシハライド類似アルペ相の酸化触媒能 一方、メタン酸化に対する触媒性能向上をめざした研究では、層構造単位がジグザグに連なった構造をとるオキシハライド触媒(これまで述べてきた層状金属オキハライドとの類緑化合物で、アルペ相と呼ばれる)を用いることにより、従来のオキシハライド触媒では短かった触媒寿命、安定性を格段に向上することができた。構成元素の最適化も図った。 (5)多重酸化物層を有する新規層状金属オキシハライドの酸化触媒能 層状金属オキシハライドの接触酸化触媒としてのさらなる応用をめざし、これまできわめて限られた条件でしか可能でなかったプロパンの接触部分酸素酸化によるアクロレイン合成を高収率で行えるよう、層状金属オキシハライドを基礎材料として触媒の開発を行った。その結果、層状金属オキシハライドの構造単位の一つである金属酸化物層が多重化した新しい層状化合物を合成することができた。調製条件、原料組成により多重度をコントロールすることも可能となった。このもののメタン酸化に対する酸化触媒能はすでに検討を済ませ、現在では、後述するイオン交換現象を応用して、プロパン部分酸化に必要な触媒機能が結晶構造レベルで集約化された触媒を調製を試みている。 (6)層状金属オキシハライド層間への金属陰、ハロゲンイオンおよび水の取り込み現象 オキシハライド合成のもう一つの計画にあったイオン交換現象の解明の研究では多くの進展がみられた。まず、イオン交換する金属の種類(3価の金属と銅)、塩の種類(ハロゲン塩のみ)の確定ができた。金属塩が存在しない場合水が層間に侵入するという新しい知見が得られた。一方イオン交換後の構造についてはXRD,ESR,EXAFSなどの測定より、推定を行った。 (7)脱ハロゲン化水素反応に対する層状金属オキシハライドの触媒能 層状金属オキシハライドの構造で金属酸化物層自体の触媒能をさらに調べるために、ハロゲン化アルキルの接触的脱ハロゲン化反応を行った。反応は酸化物層を形成する金属元素によって優先的に支配され、触媒のプロトンアクセプター能が重要であるのことが判った。このことより、アルカン酸化反応では反応はハロゲンの作用によって決定されるが、触媒サイクルを完成する上で金属酸化物層のプロトンアクセプト能も重要な因子であると推論した。
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