研究概要 |
先に我々は、エステル基がoー位のアルコキシル基を求核置換反応に対して著しく活性化するという興味ある事実を見出し、この知見を利用して、1ーアルコキシー2ーナフトエ酸エステルとナフチルグリニヤ-ル試薬の反応により、高収率で1,1'ービナフチル誘導体を合成する方法を確立した。本研究では、上記の芳香族求核置換反応をビフェニル誘導体の合成に展開し、以下の成果を得た。 1.上記のビナフチル合成においては、2ーナフトエ酸エステルにイソプロピルエステルを用いれば、グリニヤ-ル試薬のエステルカルボニル基への付加を完全に抑制でき、求核置換反応を効果的に進行させることができた。しかるに、oーアニス酸エステル類とフェニルグリニヤ-ル試薬との反応では、よりかさ高い2,6ージアルキル置換フェニルエステルとして、エステル基を保護することが必要であることが分った。また、用いるフェニルグリニヤ-ル試薬に応じて、2,6ージアルキルフェノキシ基の立体的大きさを調節することにより、高収率でビフェニル類が合成できることを明らかにした。 2.カンナビノ-ルは大麻中に含まれる幻覚発現作用を有する生理活性化合物の一つであり、古くから生合成機構や代謝経路に興味が持たれ、種々の合成法が報告されている。本研究では、上記の芳香族置換反応によりビフェニル骨格形成法を鍵反応とする形式合成法を完成した。即ち、2ーメトキシー4ーメチル安息香酸エステルと2,6ージメトキシー4ーペンチルグリニヤ-ル試薬とをTHFーベンゼン中で反応させ、ビフェニル体を90%の高収率で得ることができた。 3.2ー(-)ーメントキシ安息香酸エステルとの反応では、ビフェニルカップリングにおいて軸不斉が誘導できることを見出した。本方法は、光学活性ビフェニル類の有用な合成法となるものと期待される。
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