研究概要 |
炭素一炭素結合形成反応(CーCカップリング反応)は合成化学において最も基本的な反応である。本反応のひとつとしてハロゲン化芳香族化合物ArXを銅と反応させて脱ハロゲン化しジアリ-ル化合物ArーArを得るUllmann反応(2ArX+2Cu→ArーAr+2CuX)が以前より知られている。しかし、この反応は高湿下でおこなわれるため収率が低いこと、適応可能なハロゲン化芳族化合物の種類が限定されてしまうことなどの欠点を有していた。最近、温和な条件下で高収率にArーArを生成する高効率Ullmann型反応としてO価ニッケル錯体NiLn(Lは中性配位子)によるハロゲン化芳香族化合物のカップリング反応(2ArX+NiLn→ArーAr+NiX_2Ln)が注目されている。しかし、このカップリング反応に関する詳しい検討はなされていなかった。そこで、錯体化学的な観点から本反応を詳細に検討した。 ジメチルホルムアミド(DMF)中でビス(1,5ーシクロオクタジエン)ニッケル(0)錯体、2,2'ービピリジンの存在下60°Cで臭化ベンゼンを反応させるとビフェニルが高収率に得られる。基質である臭化ベンゼンを錯体に対して大過剰に用いた場合、その反応速度はビフェニルに対して2次の速度式に従い、臭化ベンゼンの濃度には依在しなかった。さらに、上記カップリング反応の中間体と考えられるNi(Ph)(Br)(bpy)を単離し、DMF中60°Cで反応をおこなったところビフェニルが収率よく生成した。また、この錯体とPーブロモトルエンとの反応において主生成物としてビフェニルが得られた。以上の結果より上記カップリング反応の機構は次のように考えられる。(1)O価ニッケル錯体とArXの酸化的付加反応(NiLn+ArX→NiLn(Ar)(X)。(2)不均化反応(2NiLn(Ar)(X)→NiLn×2+NiLn(Arl_2)。(3)還元的脱離反応(NiLn(Ar)_2→ArーAr)。特に本カップリング反応における重要な反応は、段階(2)の不均化反応であることがわかった。
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