研究概要 |
環状有機化合物の環を構成する炭素の一部が金属で置き替った化合物はメタラサイクル化合物と呼ばれ、近年、遷移金属錯体を触媒とするメタセシス反応、カルベノイド反応、オリゴメリゼ-ション、重合反応など多くの重要な反応の中間体としてその化学が注目されている。本課題では主としてチタノセン残基を環内に含むチタナシクロペンタン及び1ーオキサー5ーチタナシクロペンタンの誘導体の合成、構造、反応性などについて研究を進めた。具体的には、本研究者らが既に錯体Cp^*_2Ti(C_2H_4)〔1〕(Cp^*はペンタメチルシクロペンタジエニル基)と高歪みチレフィンのメチレンシクロプロパン〔2〕とから初めて単離可能なほど安定なチタナシクロペンタン体〔3〕の合成に成功しているので、これらの成果をベ-スにしてさらに本分野の展開を計った。 (1)〔1〕と2ーフェニルメチレンシクロプロパン〔4〕の反応により得られるチタナシクロペンタン〔5〕の構造をX線構造解析により明らかにした。 (2)錯体〔1〕とフェニルアレン〔6〕ならびに2,2ージフェニルメチレンシクロプロパン〔7〕の反応を検討した。これらの歪化合物は、メチレンシクロプロパンの場合とは異なり、チタナシクロペンタンは得られず、〔6〕の場合は配位子交換により新規チタノセンーアレン錯体が得られ、〔7〕は1,1ージフェニルブタジエンに定量的に異性化した。 (3)錯体〔3、5〕の反応性を検討するために熱分解,加水分解、水素化分解を行った。熱分解反応では、βー炭素炭素結合開裂反応による生成物とともに、前周期メタラサイクル化合物では初めて還元的脱離による生成物が見られた。それらの化合物の生成経路を重水素標識実験により明らかにした。 (4)〔1〕と金属カルボニル化合物(Mn、Re、Cr、Mo、W)〔8〕の反応による親規オキサチタナシクロペンタンカルベンー金属錯体〔9〕の合成に成功した。錯体〔9〕の熱分解反応ならびに、アルキン類、イソニトリルとの反応を検討した結果、本錯体の構造上の特徴がその反応性に良く反映されていることがわかった。 (5)錯体〔5〕と一酸化炭素の反応を検討し、シクロペンタノン誘導体の生成を確認した。その反応機構を推定するためにオキサチタナシクロペンタン錯体〔10〕とCOの反応を行ったところ、チタン炭素結合にCOが挿入した6員環チタン錯体が得られ、X線構造解析によって本錯体がη^1ーアシル構造をもつことを初めて明らかにした。 (6)キラルなシクロペンタジエン化合物である1,5ージフェニルトリプタセペンの合成経路を確立し、チタン錯体の合成を行った。今後、この錯体の触媒活性などについてさらに検討を加える。
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