溶媒を含まない乾燥固体中で、イオンの高速移動を可能にする高分子の設計と、情報伝達としてのイオン移動の定量的解析を行うことを研究目的とする。まず、(ωーヒドロキシオリゴオキシエチレン)メタクリレ-トとメタクリル酸の各種アルカリ金属塩を混合し、共重合してカチオンだけを伝導するシステムを作成した。得られた高分子について、交流インピ-ダンス分析装置を用い、-30〜+60℃の温度範囲でイオン伝導度を測定した結果、イオン伝導度の温度依存性は上に凸のWLF型となり、連鎖のセグメント運動が重要であることを確認した。ついで、イオン伝導度に及ぼすカチオン種の効果を整理し、より高速のイオン移動を引き出すためには、イオン半径の大きなカチオンを移動させることが有効であることを実証した。HSAB理論によれば、より柔らかいLewis酸はエ-テル酸素と弱い相互作用が考えられるので、速いイオン移動が期待できる。そこで、2価カチオンからなる一連の塩を対象とし、ポリエチレンオキシド(PEO)に溶解させ、イオン伝導度を測定し、得られた結果を整理した。同一濃度の比較からは、各子エネルギ-がイオン伝導度に最も直接影響することを認めたが、金属イオンのLewis酸としての柔らかさとの相関は見られなかった。従って、現在までの検討からは1価カチオンのセシウムあるいはルビジウムが高速イオン伝導に最も適していると結論した。 また無機イオンのみならず、有機分子のアルキルビオロ-ゲンについても解析した。定電位ステップ法を高分子固体に応用し、固体中でのこれらの拡散定数を算出した。その結果、アルキルビオロ-ゲンのアルキル側鎖長依存性がみられ、ビオロ-ゲン自身が高分子イオン伝導体中を拡散できることを明らかにした。5種類のビオロ-ゲンを合成し、異なる高分子固体中で解析した結果、見かけの拡散係数は系のイオン伝導度と一次の相関を示し、1本のマスタ-ラインで表されることを示した。このことは、ビオロ-ゲンが高分子固体中でも電子メディエ-タ-として利用できることを示すものであり、本研究の目的の一つである情報伝達としてのイオン移動の解析につながる成果を得ることができた。
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