研究概要 |
細胞間情報伝達を担うギャップ結合蛋白質のモデル系の構築とその機能のシミュレーションを目的とした。まず開始剤に1,3-ジアミノプロパノールを用いたNCA重合によりプロパノールの両末端にポリ(γ-メチルL-グルタメート)を有するポリペプチドMPrMを得た。これに独自の単分子膜反応法を適用い,ギャップ結合モデル分子であるポリペプチドam.-MPrMを得た。続いてam.-MPrMを含むジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)二分子膜ベシクルのCDスペクトルより,二分子膜中でMPrMの両親媒性ヘリックス鎖が逆ミセル状に会合していることを確認した。一方am.-MPrM-DPPC二分子膜ベシクル系のゲルフィルトレーションクロマトグラフからは,am.-MPrMがDPPCベシクル間の接着を誘起することも裏付けられ,ギャップ結合モデル系の構築を確認した。さらに“情報伝達=化学物質の輸送"の認識に基づき,am.-MPrMのベシクル間物質輸送に対する有効性を評価した。具体的には,ベシクル内水相にD_2Oおよびテルビウムイオン-H_2Oを有する二種類のベシクルI,IIをそれぞれ調製し,両者をH_2Oからなる水溶液IIIに混合した後,am.-MPrMを添加した。水溶液IIIの蛍光強度は,ベシクルIIのみを含む水溶液のそれと等しく経時変化はなかったが,am.-MPrMの添加により,その蛍光強度は著しく増加した。テルビウムイオンの蛍光はD_2Oと接することにより著しく強度が増すことや,その水和半径が大きく,am.-MPrMが形成するチャネルを透過しないことが確かめられているので,この蛍光強度の増加は,ベシクルIからベシクルIIへD_2Oが移動したことを裏付けた。つまり,am.-MPrMの二つの両親媒性ヘリックス分子が,同時に異なるベシクル二分子膜に取り込まれてチャネルを形成し,両ベシクル間の直接的な物質輸送を可能にしたのである。今後は標的ベシクルへの特定物質の輸送を念頭に,本系に対するベシクル認識能の付与が望まれる。
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