研究概要 |
潜熱蓄熱は,蓄熱密度が高いうえに,一定温度出力が得られるという利点を持ち,有望視れているものの,低熱移動速度,過冷却などの問題がある。この解決策の一つとして,有力な潜熱蓄熱材であるパラフィンワックスを乳化剤にて水に分散させたパラフィンワックス・水系エマルジョンの使用が考えられ,その場合,固液分散系の持つ流動性に基ずく好ハンドリング性,さらに熱移動速度の改善が期待できる。そこで,本研究では,パラフィンワックス・水系エマルジョンを用いた潜熱蓄熱について基礎的観点からその特性,有用性を検討することにした。昨年度においては,各種温度グレードのノルマルパラフィンワックスやイソパラフィンワックスより調製したエマルジョンについて,それらの粘度,融解熱,比熱などの物性を調べ,また安定性も調べた。いずれのワックスでもそれを45.5wt%含む比較的高濃度なエマルジョンまで流動性,安定性があることが判った。本年度は,多管式蓄熱槽にてエマルジョンの蓄熱・放熱特性を調べることを計画した。流動性,安定性の他に融解熱の大きさを考慮して,融点範囲が47.5-53.5°C,融解熱が65.8kj/kgの45.5wt%ノルマルパラフィンワックス・水系エマルジョン,および融点範囲が42.5-50.0°C,融解熱が62.8kj/kgの45.5wt%イソパラフィンワックス・水系エマルジョンを選んだ。蓄熱槽内にエマルジョンを入れ,管(銅製)内に加熱あるいは熱回収媒体として一定入口温度の水を一定質量流量で流通(上向き,下向き)させて,蓄熱・放熱実験を行った。また,水を蓄熱材とした顕熱蓄熱も行った。その結果,エマルジョンの蓄熱・放熱特性は蓄熱材単位質量ベースで熱移動速度の改善を明確に示し,また,顕熱蓄熱材(水)よりもかなり優れていることが明らかになった。さらに,加熱あるいは熱回収媒体の入口温度,質量流量,流通方向が蓄熱あるいは放熱特性に及ぼす影響も明らかにした。
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