研究概要 |
カイコの中腸組織における消化・吸収の分子機構を解明するためのモデルシステムとして蔗糖の分解と吸収系をとりあげ,特に中腸組織の蔗解分解酵素に着目して研究を行った。中腸組織の蔗糖分解酵素の活性測定条件の検討の結果,5齢幼虫期と蛹期では反応の至適条件が異なることを明らかにした。ここで明らかにした至適条件を用いて4齢幼虫期から5齢幼虫期,蛹期を経て蛾になるまでの発育時期の酵素活性の調査から5齢中後期にかけて活性の極大が認められることを明らかにした。4齢幼虫の始めから蛾になるまでの可溶画分の酵素を電気泳動した後,活性バンドのパターンを調査したところ,5齢幼虫と蛹では異なったパターンが認められること,その切り替え時点は蛹化脱皮時であることを明らかにした。酵素の細胞内局在性は可溶画分に90%の活性が,残り10%の活性が膜結合画分に存在し,この傾向は5齢幼虫期間中ならびにそれ以降蛹中期まで変化しないことを明らかにした。5齢中期の中腸組織の可溶型と膜結合型酵素の反応動力学的性質はかなり異なっていることを明らかにした。分離中腸の系を用いて膜結合型酵素が蔗糖の分解に関与していること,ならびに中腸組織中に存在する胃腔膜が蔗糖が分解されて産生されたブドウ糖と果糖を中腸細胞外つまり体腔中へ輸送する段階を促進していることを明らかにした。5齢幼虫の中腸組織の可溶画分より可溶型のβ-フラクトフラノシダーゼをほぼ均一なタンパク質にまで精製する方法を確立した。精製は40-80%の硫安分画,DEAE-セルロース,ハイドロキシルアパタイト,セファクリルを担体とするカラムクロマトグラフィーによって行った。一方膜結合型の酵素の単離のための膜からの可溶化方法を確立した。可溶化された酵素の部分精製標品は可溶型のβ-フラクトフラノシダーゼとは明らかに反応動力学的性質が異なっていた。
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