研究概要 |
生体内で合成されたポリペプチドが固有の機能を発揮したり,また細胞内の正しい局在位置に局在するためには正しい立体構造の形成が重要である。タンパク質の立体構造の安定化に寄与しているジスルフィド(SーS)結合をもつタンパク質はほとんど細胞外にある。プロテインジスルフィドイソメラ-ゼ(PDI)はタンパク質のSーS結合の形成及び掛け替え反応を触媒し,Foldingに重要な役割を果たしていると考えられているが確かな証拠はない。このような複雑な過程を研究するには遺伝学的手法を用いることは有益であると考えられ,酵母 Saccharomyces cerevisiaeを用いて研究を行った。 (1)まず上記酵母にPDIの存在を確認したので精製してその性質を調べた。PDIの分子量はゲル濾過で140kDa,SDSーPAGEで70kDaであることからホモダイマ-と考えられた。 (2)次にこの精製PDIのアミノ酸配列をもとにしたヌクレオチドプロ-ブからPDI遺伝子のクロ-ニングを行い,塩基配列の決定を行った。PDI遺伝子を破壊すると酵母は増殖できないことから生育に必須であることが示された。従ってPDIが生体内の蛋白質のフォ-ルデイングに重要な役割をしていることが予想される。現在,この酵母PDI遺伝子の高温変異遺伝子を作成したり,PDI遺伝子の上流を誘導可能なプロモ-タ-につなぎ,その発現が抑制されたときに,タンパク質の高次構造形成や分泌にどのような変化が起こるかを調べている。 (3)PDIは多機能蛋白としても注目されているが,Nーグリコシド型糖鎖導入酵素の糖鎖導入部位結合タンバク(Glycosylation Site Binding Protein:GSBP)と同一であることを証明した。糖鎖導入やSーS架橋反応はunfoldの状態で起こるのでこの多機能性は高次構造形成には都合のよいことを示しているのかも知れない。
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