研究概要 |
ラット甲状腺由来FRTL-5細胞において、cAMP細胞内情報伝達経路を刺激する甲状腺刺激ホルモン(TSH)とチロシンキナーゼ細胞内情報伝達経路を刺激するインスリン様成長因子I(IGF-I)は、それぞれDNA合成あるいはタンパク質合成を促進したが、これらを同時に添加するとDNA合成およびタンパク質が相乗的に増強することが明かとなった。これらの現象を更に詳細に解析するために、細胞をTSHあるいはIGF-Iで24時間処理し、その後同じあるいは異なるホルモンで細胞を処理し、DNA合成量を測定した。その結果、TSH前処理後IGF-Iで処理した場合のみ、DNA合成の相乗的な増強が認められたことから、cAMP細胞内情報伝達経路刺激により細胞がprimingされ、IGF-Iにより強く応答するようになると考えられた。 この相乗作用発現機構を検討するために、細胞をTSHで24時間前処理後、IGF-Iで1分間処理し、抗ホスホチロシン抗体を用いたimmunoblotting法で細胞内タンパク質のチロシンリン酸化を調べたところ、1)TSH処理によりIGF-I依存性チロシンリン酸化が増強する(pp175,pp95)、2)TSH処理によりIGF-I非依存性チロシンリン酸化が増加する(pp125,pp100,pp80)という現象を発見し、更にこれらの基質のチロシンリン酸化が細胞周期の進行に重要な役割を果たしていることがわかった。これらの結果は、cAMP細胞内情報伝達経路とチロシンキナーゼ細胞内情報伝達経路の情報の合流がチロシンリン酸化の段階で起こることを示していた。一方、このような両経路間の情報の合流は、初代培養肝細胞を細胞内cAMP濃度を上昇させる薬剤とインスリンで処理した際にも観察され、種々の細胞で普遍的に認められることが明らかになった。続いて、大量に培養したFRTL-5細胞をBt2cAMPで48時間前処理後IGF-Iで5分間処理し、この細胞の抽出液より、DEAE-陰イオン交換クロマトグラフィー、抗ホスホチロシン抗体アフィニティークロマトグラフィー、SDS-ポリアクリルアミド電気泳動を用いて、pp175の単離・精製を行った。
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