研究概要 |
人間は勿論,一般に哺乳動物の食嗜好性の形成には離乳期以降における,いわゆる「餌付け」に相当するプログラムが非常に重要な役割を果していることは広く知られている事実である。この通常,母親から子に対してなされる「餌付け」行為は動物界において広くみられ、その行為の結果獲得される各動物の食嗜好性も含めて,本能による支配を受けていると考えられており,肉食動物が肉を摂食し,草食動物が草を食べるのはその典型的な好例とされてきている.しかし,これらの動物の食嗜好性の形成が,どの程度本能的要因により,決定されているのかという点については末だ十分には科学的に検証されていない.本研究においては、これらの点に関する検証を離乳期直後の実験用小動物を用いて試みると共に,さらに離乳期以前の食嗜好性形成機作についても予備実験を試行した.なお,“餌付け成分"としては牛生肉香気等の形成に関与する香気成分を中心に検討を加えた.離乳期直後の草食性幼動物(モルモット,ウサギ)を試験群と対照群の2群に分け,両群共に緑葉臭を含まぬ基礎飼料投与下に飼育し,その間,対照群は新鮮な緑葉に対し,試験群は牛生肉に対して,それぞれ一定期間「餌付け」を行った.餌付け期間終了後,両群の動物に対し嗜好性テストを行った結果,対照群が生肉に対し全く興味を示さないのに対し,試験群は緑葉よりも牛生肉を好み,且つ対照群に比較して生肉に対するより強い嗜好性を示すことが確認された(統計学的有意差有り),なお,その際,これらの草食動物は香気成分を食物情報物質として利用していることも確認された.また,GC,及びGC/MS分析の結果,緑葉香気成分と牛生肉香気成分とでは,その構成成分が非常に異なることから,対照群と試験群とではそれぞれ別種の香気成分を"餌付け成分"として利用していることが強く示唆された。予備実験により離乳期以前における食嗜好形成に関する基礎デ-タを得た.
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