研究概要 |
シアロ複合糖脂質ガングリオシドは動物細胞表層に局在し,細胞間識別,細菌毒素,ウイルスやバクテリアのレセプター機能,がん関連抗原,免疫抑制活性,免疫反応,細胞接着因子,その他の活性因子として,深く生命現象に関与している。本研究においては,有機合成化学的手法を用いて,ガングリオシドの機能を分子レベルで解析を行い,新しい生理活性物質としての利用を目的としている。ガングリオシドの構造は多様なオリゴ糖鎖,脂質部分であるセラミド分子及び9炭素酸性糖であるシアル酸から構築されている。その各成分の結合様式はオリゴ糖鎖の特定の位置にシアル酸がα-配糖体結合し,セラミドは糖鎖の還元未端にB-グリコシド結合をしている。この各成分は分子多様性であり,ガングリオシドは無数に存在していると云える。それ故に天然界より単一化全物として得ることは困難である。最近我々はガングリオシドを単一化合物として合成する方法を開発し,各種のガングリオシドを系統的に合成することに成功した。その中でネオラクト系列ガングリオシドに属するシアリル-ルイス-Xの全合成に成功した。このガングリオシドは,生体内でTNFやインターロイキン-1刺激により血管内皮細胞に出現するE-セレクチンやスロビン刺激により血小板や内皮細胞に出現するP-セレクチン及び白血球に存在するレ-セレクチンに認識され結合することが合成化合物を用いて証明された。この事実は炎症に際して白血球が内皮細胞や血小板に接着することや,がんの転位や血栓形成に際しても内皮細胞への接着が第一段階であると考えられており,白血球やがん細胞表層に存在するシアリル-ルイス-X糖鎖をセレクチンが認識し,接着することによるがん転位,炎症部位への白血球の移動が説明できる。更にこの合成手法を用いて,各セレクチンが認識する糖更構造要求性を証明すべく,糖構造を変換したシアリル-Le^x類緑体合成を行っている。
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