研究概要 |
糖鎖再構成技術の確立とその応用展開は,糖鎖工学の基盤技術としてきわめて重要な地位を占めている。本研究においては,各種チオグリコシドを糖供与体としたシアロ及びフコシル化糖鎖,ならびに糖タンパク質糖鎖プロセシング阻害剤の1コである1-デオキシノジリマイシン(DNJ)を含有するオリゴ糖鎖の系統合成を行い,糖鎖合成技術の発展とその医学生物学への応用において大きな成果を得た。 すなわち,糖タンパク質(特にムチン型)及び糖脂質(ガングリオシド)に含まれる機能性オリゴ糖鎖として,白血球ホーミング及び血行性癌転移に関与する糖鎖抗系,シアリルLe^x及びシアリルLe^a糖鎖エピトープならびにその類稼体の系統的化学合成に成功し,糖鎖構造と機能発現の相関を解明するとともに,新しい生物機能を有する糖鎖の開発に成功した。DNJを出発化合物とし,N-ベンジルオキシカルボニル(Z)誘導体としたのち,水酸基を適切に保護した。3倍水酸基にL-フコースまたはシアリルα(2-3)ガラクトースを縮合させ,シアリルLe^x及びシアリルLe^a合成中間体を収率よく合成した。つづいてこれら化合物構造中DNJ部分の4倍水酸基を遊離とし,逆にシアリルα(2-3)ガラクトースまたはL-フコースを導入し目的とするシアリルLe^x及びシアリルLe^a糖鎖エピトープを合成した。これらDNJ含有糖鎖は,いずれもセレクチンによって認識され,特にシアリルLe^a型糖鎖は,天然型(N-アセチルグルコサミン含有)エピトープよりも強く(約10倍)反応した。将来これら糖鎖は新しい医薬品のリード化合物として期待される。さらに,糖加水分解酵素を用いた機能糖鎖の合成についても検討し,シアリルα(2-3)グリコシドの再構成に成功したが,今後,化学法と酵素法を組み合わせた糖鎖工学的アプローチ(Chemo-enzymatic synthesis)が有効である。
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