研究概要 |
遺伝育種研究を深化させる上で,優れた遺伝的指標(遺伝子マ-カ-)の開発が必要不可欠である.本研究ではDNA指紋の手法を林木を対象とした研究分野に導入し,実用化するための基礎的研究として,きわめて高い変異性を検出することができるプロ-プおよびプライマ-の開発とその評価を行った. 研究対象樹種として主としてスギを用いて,まず,全DNAの単離法として現在広く用いられているCTAB法について改良を加えた.その結果,DNA回収率が著しく向上し,また,DNA純度もRFLP(制限酵素断片長多型)分析およびPCR(polymerase chain reaction)を行うのに十分であった.この確立された抽出法を用いて,九州地域の20精鋭樹クロ-ンからDNAの単離を行った. 一方,DNA指紋に有効なプロ-ブとプライマ-の検索を行った.現在,DNA指紋の主流となっているRAPD法とM13法について検討した.まず,RAPD法では,合成した25組のプライマ-(10bps)対を用いてPCRによりDNAを増幅し,アガロ-ス電気泳動パタ-ン(DNA型)における変異の検出を試みたが,高い変異性を示すプライマ-対を見い出すことはできなかった.しかし,λファ-ジの1種であるM13の塩基配列の一部(約500bps)をプロ-ブとしたRFLPにおいて高い変異性が認められた. このプロ-ブを用いて,先に述べた20精鋭樹クロ-ンの識別を試みた結果,同一のDNA型を示す個体は認められず,このプロ-ブがスギのDNA指紋においてきわめて有効であることが明かとなった.これにより,今後,品種および精鋭樹クロ-ンの分類・同定,交配家系における親子鑑定,天然林での繁殖構造の解明などが可能となった.
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