研究概要 |
申請者はこれまで軟体動物をはじめ、海綿、腔腸、環形、節足(甲殻類)棘皮動物など各種海産無脊椎動物に遊離のD型のアスパラギン酸(D-Asp)が広く分布していることを認めた。D-Aspの誘導体の一種β-D-アスパルチルグリシンについてはアメフラシの成長、成熟との関係を調べた。本年度はD-Aspの分析法を改良し他の全アミノ酸の光学分割HPLC分析を試みた。その結果、光学異性体が存在する一級アミノ酸14種のうちDL-Lysを除く13種類のアミノ酸の光学分割分析が可能になった。しかし、この方法を生体成分に適用した場合、他のアミノ酸類との分離を考慮すると、完全にピークとして同定出来るD-アミノ酸はAsp,Glu,Thr,Arg,Ala,Tyr,Val,Ile,Leuの9種類であった。この方法を用いて数種の海産無脊椎動物について組織毎の遊離のD-アミノ酸の分析を行った。全体を通じて確認できたD-アミノ酸はD-AspとD-Alaのみであったが、一部の種にD-Leuと思われるピークが認められたが、今後何らかの方法で確認が必要である。D-Aspは軟体動物のアカガイに比較的多量に認められたが、他の種は比較的少なかった。しかし、いずれの種もエラにD-Aspが認められ注目された。D-Alaはハマグリに極めて多量に含まれることが確認された。特に、閉殻筋などの筋肉組織で多く、L-Alaの2-3倍の含有量を示していた。D-Alaは他に甲殻類エビジャコや棘皮動物ウニなどの海産無脊椎動物にもL-Alaと同程度の濃度で検出されたが、軟体動物ではハマグリ以外は検出されず、起源や生体内での役割などに興味が持たれた。D-アミノ酸の生理機能を推察すべく、エビジャコを用いて塩分濃度との関係を調べた。50%海水に馴致させたエビジャコを低塩分濃度海水および高塩分海水に移し、D-Alaの変化を観察したところ、低塩分条件下では減少し、高塩分条件下では逆に増加した、いずれの条件でもD-AspはL-Aspの変化を大きく上回り、浸透圧調節に大きな役割を持つと共に、代謝も活発であることが推察された。
|