研究概要 |
(1)先天性生殖細胞欠損マウス(W/W^V)(2)精子不妊症を発症するAs系ミュ-タント・ラット(3)非繁殖期のハムスタ-の3例を精子形成不全モデルとして取り上げ,セルトリ細胞の細胞骨格系を各々正常個体(精子形成個体)と比較することによって,セルトリ細胞の細胞骨格系が精子形成不全にいかに関わるかを検討した。まず,先天性生殖細胞欠損マウス(Wマウス)では,その精細管径が正常マウスの約1/2にまで減少していたが,セルトリ細胞ーセルトリ細胞間およびセルトリ細胞ー精子細胞間のEctoplasmic specialization(ES)におけるアクチンフィラメントの集積は認められ,しかも正常マウスのそれと比べて広範囲に及んでいた。しかし,ランタン・トレ-サ-法を用いた実験によって,Wマウスのセルトリーセルトリ間のTight junctionは血液精巣関門として機能していないことが明らかとなった。一方,中間径フィラメント(ビメンチン)はWマウスの場合もセルトリ細胞核の周囲およびセルトリ細胞幹にその分布が観察されたが,セルトリ細胞幹での局在は正常マウスの場合と比べて半分以下の長さにしか過ぎなかった。これはWマウスでは,セルトリ細胞の高さが生殖細胞の欠如によって減少した事に起因するとみられる。また微小管についても差異は認められなかった。As系ミュ-タント・ラットでは,パキテン期精母細胞においてタンパク合成系が異常を来し,リポゾ-ム顆粒が集積する事が精子形成不全の原因と推測され,アクチンフィラメント,中間径フィラメントともにその分布において異常は見られなかった。またランタン・トレ-サ-法よって,ミュ-タント・ラットでもセルトリーセルトリ間のTight junctionは正常に機能していることが確認された。非繁殖期のハムスタ-のセルトリ細胞では,アクチンフィラメントは少ないながらも繁殖期のハムスタ-のそれと同様の位置に認められた。また,中間径フィラメントおよび微小管も非繁殖期と繁殖期の間に質的な差異は認められなかった。 以上のように,今回取り上げた3種の精子形成不全モデル動物では,セルトリ細胞の細胞骨格系は量的な増減はあるものの,その局在部位や構成タンパクにおいて質的な変化を示さないことが明らかとなった。また本研究によって,生殖細胞との相互作用のない状態でのセルトリ細胞本来の細胞骨格系の分布や正常なアクチンフィラメントをもつESにおけるTight junctionの機能不全など多くの新しい知見が得られた。
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