研究概要 |
まず最初に新しい癌遺伝子mafの遺伝子産物(Maf)に対する抗体を作製これを用いて正常鶏胚,若齢雛の各臓器を免疫組織学的にしらべた。Maf陽性所見はすべて細胞核に認められた。孵卵10日の胚では脳で陽性細胞が多数観察され,とくに大脳皮質と視葉の顆粒細胞が顕著であった。さらに腎糸球体上皮,肺原基の間葉細胞,心,消化管,軟骨周囲の結合組織細胞が陽性であった。孵卵15日の胚から孵化後5日の雛で,ほぼ同様の分布が観察されたが,とくに肺では孵卵15日で間葉細胞が強陽性を示し,その後,上皮細胞の増数にともなって陽性細胞は減数した。40日の雛では大脳皮質,視葉,腎糸球体ばかりでなく小脳顆粒細胞も陽性であった。若齢雛臓器を用いたノ-ザンブロットの結果,脳,肺,腎でmaf RNAの発現がみられた。mafをもつ癌ウイルス(AS42)の鶏感染実験は進行中。 次に癌遺伝子fos(正常鶏胚では神経系,間葉系の細胞に発現するという報告がすでにある)をもつ癌ウイルスNK24を新生雛に接種,発生する腫瘍を病理学的に観察した。腹腔内(ip)またはwing web(ww)接種後1〜2カ月で半数以上の鶏に腫瘍の発生がみられた。ip接種では消化管漿膜,腸管膜に,ww接種では翼〜大腿部の皮下に米粒大〜雀卵大の白色硬質の腫瘤が多数形成された.腫瘍は組織学的には充実性の線維組織で,大型の多角形腫瘍細胞が散在していた。この細胞は異型度が高く,核分裂像も認められた。 以上のことから、新しい核内癌遺伝子mafは正常のニワトリ発生,成長過程において,fosと同様に,おもに神経系,間葉系の細胞核に発現することがわかった。maf,fosをもつ癌ウイルスのニワトリにおける発癌実験は進行中であるが,fos(NK24)については腫瘍が高率に発生することが認められた。
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