研究概要 |
ネコ免疫不全ウイルス(FIV)感染猫では急性期後無症状の時期が存在し,その後後天性免疫不全症候群(AIDS)に至る発症経過をたどるが,発症の頻度とその際の引金になる各種刺激については不明な点が多い。これまでに世界で実験感染が行われているが発症に成功した報告はなく,実験的環境における発症補助因子の欠如も示唆されているため,FIV感染無症状キャリアー猫に実験的処置を加え発症補助因子の検討を行うと同時に,実験感染発症系の作出を目標とした実験を行った。FIVペタルマ株実験感染無症状猫に長期持続型ステロイド,リンパ球刺激物質(血清胸腺因子)を投与しても,あるいは二次感染として非病原性ワクチニアウイルスを接種しても病期の進行はみられなかった。また低下したCD4数に対する回復効果は血清胸腺因子ではみられなかった。ワクチニアウイルスの場合には,病期進行はみられなかったが、CD4数を増加させる効果がみられた。これら3種の物質は補助因子としての性格が認められなかったため,次にウイルス側の要因を検討した。わが国の自然感染発症猫から分離されFIV-GA3株を用い実験感染を行ったところ,5例中3例が発症して死亡した。病理学的にはそのうち1例はAIDS,2例はAIDS関連症候群で死亡したものと考えられた。このことから,実験的にも病期が進行して発症する系が作出可能であり,発症には少なくともウイルス側の病原性が強く関係していることがわかった。
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