研究概要 |
シマアジ稚魚に発見された全身性真菌病罹病魚の外観的特徴は体表の黒斑と潰瘍であった。体表患部および内臓諸臓器の直接鏡検にて淡褐色の有隔性菌糸と分節型分生子が見出された。患部から不完全菌類に分類されるScytalidium sp.とOchroconis humicolaの2種類が分離されたが,自然発症魚および人為感染魚の病理組織学的所見から,へい死原因および病害性には前者の菌がより重要な役割をはたしていたと考えられた。シマアジから分離された両菌種の菌体外産物と菌体をキンギョに接種し,それらが魚体に与える影響を病理組織学的に検討した結果,死菌でも肉芽腫を形成することが判明した。また内芽腫の周囲にはリンパ球が浸潤していたことから,細胞性免疫が関与している可能性も示唆された。菌体外産物接種群ではともに筋線維の広範囲にわたる融解性の壊死と好中球,単核球などの一過性の出現を特徴としていた。その後,壊死した筋線維は再生筋線維により修復された。このことから両菌種の菌体外産物中には筋肉を分解する酵素が存在すると思われ,これらが感染に重要な役割を担っているものと考えられた。Scytalidium sp.のK2株について発育至適温度を求めた結果,菌は肉眼的に10℃から32℃の範囲で発育を示し,特に,22℃から28℃の範囲で良好な発育を示した。比色の結果では,24℃が最適温であると判断された。いっぽう,8℃以下および35℃以上の温度では菌は死減した。これらのことから,たとえ,感染魚を生食したとしてもヒトの体内で本菌が繁殖する恐れはないと判断された。K2株に対する各種薬剤の最小発育阻止濃度(MIC:μg/ml)を求めた結果,MIC値はホルマリンが315〜625μg/ml,ポリフェノール,カテキンおよびシクロヘキシミドが1,000μg/ml以上,グリセオフルビンが100μg/ml以上,マラカイトグリーンが1.56〜3.13μg/mlであった。この結果からすると,本症の治療は困難であろうと推察された。
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