本研究は、前庭半規管による頭部の平衡調節に関わる中枢神経機構を明らかにするため、各半規管神経を単独電気刺激する方法を用いて、左右6個の各半規管から頚筋運動ニュ-ロンへの入力パタ-ンを解析した。実験は、麻酔ネコを用い、各半規管神経を単独で電気刺激するため両側三半規管の各膨大部に小穴を開け、50μmのタングステン双極電極を植えた。連続パルス刺激(50μA以下で20〜30発)により生ずる眼球運動のパタ-ンを指標に最良の刺激部位を同定し、電極を固定する。動物を脳定位装置に固定した後、頚筋の神経を剖出し刺激電極を取り付け、頚筋運動ニュ-ロンから細胞内記録を行い、運動神経の逆行性刺激法で支配筋を同定した後、左右の各三半規管神経に単発の電気刺激を与え、入力パタ-ンを解析した。4個の頚筋への6つの半規管からの入力パタ-ンを明らかにした後、前庭神経核から運動ニュ-ロンへの経路を決めるため、内側及び外側前庭脊髄路を切断し、切断前後の反応を比べ、各半規管から各運動核への2ないし3シナプス性のIPSP、EPSPの経路を明らかにした。その結果、二腹筋、後頭直筋、頭半棘筋の運動細胞は、いずれも同じパタ-ンの半規管入力を受けており、両側前庭半規管から興奮性入力、両側後半規管から抑制性入力を受けていた。下頭斜筋では、同側垂直半規管から興奮性入力、対側垂直半規管から抑制性入力を受けていることが明かとなった。又、これら全ての筋の運動細胞は、同側水平半規管から興奮性、対側水平半規管から抑制性入力を受けていた。以上の結果、従来、すべての頚筋が半規管から同じパタ-ンの入力を受けていると考えられた定説を変更する必要があることを示し、さらに各頚筋がそれに特有の入力パタ-ンを6つの半規管から受けることを明らかにした。
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