研究概要 |
ヒトの発汗および皮膚血流調節機構における神経ー効果器反応を,皮膚交感神経束に刺入した微小電極で節後線維を電気刺激することにより分析することを目的とした。膝窩部で脛骨神経にタングステン微小電極を刺入し,皮膚交感神経電位が記録できるのを確認したのち,電極刺入部より5〜6cm中枢寄りで同神経を浸潤麻酔によりブロックし,続いて刺入電極を刺激装置に接続して定電流で刺激し,足底部で換気カプセル法とレ-ザ-ドップラ-法によりそれぞれ局所発汗と皮膚血流の反応を観察することを計画した。まず安全確保のため漏洩電流の少ない刺激装置を設計・製作し,予備実験によって安全な刺激条件の設定などを行ない,安全性を主眼とした神経内刺激の基礎的手技を確立した。これらの手順にかなりの時間を要したため,(また補助金の交付決定が遅かったことも影響し)期限内に本実験に予定した時間が十分とれなかったが,これまでに弱い電気刺激に対する反応を観察し次の結果を得た。(1)神経内刺激により,反応の潜時が0.8〜1秒程度の発汗反応が誘発されるが,これは無麻酔時の刺激で見られる中枢を介すると考えられる反応(潜時3〜4秒)より明らかに短い潜時を有するので,この反応は発汗神経節後線維の直接刺激によるものであると考えられた。(2)予め無発汗の状態で刺激するときの発汗反応に比べ,麻酔の導入・回復期で自発性の発汗が認められる時に得られる反応では潜時は短くなる傾向があった。(3)発汗反応誘発のための刺激閾値は個人差が大きく,また同一被験者でも時間経過により異なった。(4)交感神経内刺激による皮膚血流は,多くの場合明らかな変化を示さず,発汗反応と比べて皮膚血流反応誘発のための刺激閾値は高いと考えられた。今後はより強い刺激による反応を検討して発汗および皮膚血流の刺激ー反応特性を明らかにし,さらには腓骨,正中神経などの皮膚交感神経についても同様に検討する予定である。
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